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2022.05.07

酷評「酷評辞典」・・・の巻

Barizougon01

 本を買ったはいいが、ときおり「失敗した是!」と“散財”を悔いることもあるのが世の常。
 本書『クラシック名曲「酷評」辞典』(ニコラス・スロニムスキー編・藤村奈緒美訳/YAMAHA)も、残念ながらそんな1冊であった。

 この本、だいぶ前に買ったものの、すっかり忘れていたのだが、なんで忘れていたかというと、ほんの少しばかり目を通しただけで「もういいや」と本棚に突っ込んだままになっていたからであった。

 イヤな予感は最初からあった。
 ネット書店で遭遇し、「面白いかもしれん」と上下巻を注文しようとしたのだが、第六感が働いたといおうか、とりあえず上巻のみを購入。届いた本をさっそく開いてみれば「ぁあ、やっぱり……」と2090円ナリの出費に憮然とさせられたのでありMASITA。

 内容は、このオビに記されているとおり。当時の音楽新聞などに掲載された楽曲や演奏の論評のなかから、酷評ないしそれに近いものを集めて編集したものである。それそのものは面白い発想で、個人的にこの上巻(頭文字B~P)であればショパン(C)やバルトーク(B)などに興味がわくし、下巻(Q以降)だとショスタコービチ(S)などが気にかかる。

 だが、じつはそうした個人的にお気に入りの作曲家については、すでに知っている「酷評」も多く、すべてではないにせよとくに目新しい「事実」が編纂されているワケでもないのであった。また、とりたてて関心もなければ、その楽曲すらほとんどないしまったく聞いた覚えのない作曲家だったりすると、せっかく書かれてあることの話半分も理解しがたい(これはまぁ読者であるこちらの責任なのだが…)ということになってしまう。言い換えると、通読するような本でもないかもしれないのだ。

 くわえて、上下巻を揃えると4000円を超すことになるのだが、これはひとえに巻末──といっても全238ページ(奥付と著訳者紹介の2ページを除く)中55ページにもわたるのだが──にある索引(そのおよそ半分のスペースは「罵倒語索引」)によって嵩を増したためと見て取れるのだ。下巻の索引ボリュームは確かめていないが、こんなものでページを割くヒマがあるのなら、本文に譜例を挿入するなり、当時の音楽新聞を「図版」として掲載するなりすれば、よほど資料的価値が高まるというものだ。こんなザマなので、わざわざ上下巻にして利益を上げるために「索引」で割増したのではないかと疑いたくもなってくる。

 もちろん、集められた「罵詈雑言」批評にはユニークなものも多い。

 バルトーク ベーラの欄には、

>(前略)作曲家がブーツを履いて鍵盤の上を歩き回っている様子を表わしているのかと思うような、無意味な音の集まりで構成されていることがわかるだろう。(中略)鑑賞に耳が必要なものはない。(中略)バルトークの作品は、単なる排泄物にすぎない。(69ページ)

 などと、ケーセッキ安倍にでも言ってやりたい罵倒が連ねられていて苦笑してしまう(もっとも、オレは引用した意見には賛成しませんがね)。

 また、米国の前衛作曲家・ヘンリー カウエルに対しては、

>カウエルは、音群を発明したといわれている。ピアノを拳と前腕を用いて鳴らすのだという! 何を遠慮しているのだろう? 尻を使えばもっとたくさんの音が出せるではないか! (122ページ)

 という次第。

 ここで「音群」としてあるのは、一般に「トーンクラスター」と呼ばれているもので、ようはこの「酷評」で触れられているような演奏をいちおうは指す。

 ついでの話。そんな役に立つのか立たないのかわからないような豆知識があったおかげで、昨今のコロナ騒動で用いられている「クラスター」の意味は即座に理解できたものだが(笑)、これだって単に「集団感染」と呼べばいいだけの話ですな。このように、ごく最近では「トリガー条項」だのなんだのと、ワケのわからん新種のカタカナ語を用いる「報道」を見るにつけ、「こいつら、なにか誤魔化したいことでもあるのか」と疑いたくなってくる。ちなみに、大学浪人時代からの友人のラッパ吹きも、このトーンクラスターを思い浮かべたというから、豆知識だってバカには出来ませんね(笑)。

 話を戻すと、編纂されている罵詈雑言は確かに興味深く面白いものも多いのだが、にも関わらず本書に対しこうして罵詈雑言ばかりが浮かんでくるのはなぜか。編者あるいは原著のせいだろうか。それとも日本語版(本書)の編集のせいだろうか。一読者の感想にすぎないが、こうした罵詈雑言批評の背景──たとえば、当時の音楽スタイルや流行、そんななかでの作曲家の位置づけ、批評者自身についての人物像や評価など──とともに紹介されていれば、学術的にも面白い編纂物になったのではないかとも思うのである。

 まぁ、なんにしても個人的には大失敗の巻であった。御無礼!


 

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