あの元総理による「知的水準」発言を覚えていますか?・・・の巻

“世界のジャイアント馬場”である。
“御大・ジャイアント馬場”である。
あるとき、ふとネット書店の検索窓に「ジャイアント馬場」と入れたところ、発売直前の本書『雲上の巨人 ジャイアント馬場』(門馬忠雄・文藝春秋)がヒット。すぐさま注文し、届いた翌日に読みふけった。
あらためて驚くような事実や秘蔵話が満載という本ではないが、「東京スポーツ」の第一線記者だった著者の人生と重ね合わせるようにジャイアント馬場の素顔が語られている。本題とはやや外れたところでは、著者が現役時代に鉄道に乗りまくっていたこと──言うまでもなく取材がらみが大半であった──に興味を覚え、「その当時の汽車旅の本を書き下ろしていただけないものか……」などと思案したりもしている。
さて、ここで本書を取り上げたのは、馬場さんと著者および版元には申し訳ないけれど、本書の紹介や感想を述べるためではない。
ジャイアント馬場が絵画をたしなんでいたことや、読書家であったことはよく知られた話。本書でもその一端が語られている。いわく、
>列車移動の折り、グリーン車に座っている馬場さんは、眠っているか、読書である。(114ページ「読書人としてのジャイアント馬場」)
このくだりに、個人的に興味を引いた記述があるのだ。
>そして、全日本のオーナーになると、イザヤ・ベンダサンの『日本人とユダヤ人』からエンターテイメントの柴田練三郎、剣客物の池波正太郎(中略)
『日本人とユダヤ人』について聞いてみると、「プロレスの世界では、ユダヤ人のことを知っておかないと商売できないからね。横文字を翻訳した本は苦手だね。カタカナの名前が面倒くさくなってわけが分からなくなる(笑)」。(同144~115ページ)
いやはや、流行本恐るべしといおうか、馬場さんもとんでもない本を切実な思いで手にしてしまったものである。
馬場さんは「カタカナ」云々で「わけが分からなくなる」──(笑)にもご注目!──と答えたそうだが、おそらくカタカナ云々以前に『日本人とユダヤ人』の大嘘ぶりを見破ったのに違いない。なにしろ、その著者であるイザヤベンダサンこと山本七平さんと比べるまでもなく本物の生きたユダヤ人たちとつき合ってきたのがほかならぬ馬場さんであり、ユダヤ人以外の米国人らとも「ガチンコ」の交流を続けているのも馬場さんだからである。そういう人物がこの駄本を読んで「わけが分からなくなる」のは当然だったハズで、それがこの控えめなコメントにつながったのであろう。本書(雲上の巨人~)で著者はその問いの意図については触れておらず、やはり興味を引くところではある。
ジャイアント馬場が「(笑)」をもらした『日本人とユダヤ人』とはいかなる本か? これについては、以前このブログで触れたことがある(「ペテンヒット天国の巻」)。そのさい題材に用いたのが『にせユダヤ人と日本人』(浅見定雄・朝日文庫)だが、その中盤にはつぎの記述がある。
>1970年に東京のあまり有名でない聖書関係専門の学術出版社から出るとすぐ、この『日本人とユダヤ人』は天井知らずのベストセラーとなった。
有名人はみなこの本を読んだ。元総理大臣の佐藤栄作氏は国会でこの本を引き合いに出した。中曽根康弘氏も、また天皇の義妹のあたる秩父宮妃殿下も、この本を話題にしていたそうである。(150ページ「論争の書、いまや英語に」B.J・シュラクター。原著の漢数字を算用数字に改めました)
引用した箇所は、()にもある通りBJシュラクターの署名でとある英語新聞に掲載されていた書評を著者が訳し、ぞの全文を引用したものである(『にせユダヤ人と日本人』でも指摘されているが、『日本人とユダヤ人』はイザヤベンダサンさんの英語原文を山本七平さんが翻訳したという触れ込みで、ジャイアント馬場も「横文字を翻訳した本」と語っている。ところが、シュラクター氏の書評はその日本語版原著からの英語訳版<訳:リチャード L ゲイジ>についてであり、米国で発売された英文版が本書の原著というワケではない)。
驚くべきことに、ここに我が祖国日本の総理大臣経験者の名前がふたりも挙げられている。正直、こんなペテン本(『日本人とユダヤ人』)に感心するのは余程の無知かお馬鹿さんぐらいなもんだぐらいに思っているが、それでハタとわかったのである。
こんなペテン本を本気で絶賛するような人物が総理大臣を務めるような国は、よほど「知的水準が低い」のであろう、と──。こんなことは言いたくないが、祖国はこのままでいいのかと嘆かわしい思いだ。
ついでながら、『日本人とユダヤ人』英訳書は米国でほとんどまったく相手にされなかったそうである──当時は日本国内というよりも欧米など外国で「日本論」的な書物や議論が流行していたにも関わらず──。あたりまえですね。「知的水準」がマトモであれば、そうなって当然なのである。
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