2021年10月31日・・・の巻
大韓の詩人・金芝河(キムジハ=김지하)に「1974年1月」という詩がある。
同年1月8日、朴正煕が緊急措置第1号を発動した。これは、大統領の権限により「憲法上の国民の自由と権利を暫定的に停止」できるという措置で、これは、1972年に制定された「維新憲法」にその権限が定められている。ときの朴政権の狙いは、民主主義の回復を求める改憲運動を抑圧することにあり、「この措置に違反した者とこの措置を誹謗した者は、裁判官の令状なしで逮捕および拘束、押収、捜索のうえ15年以下の懲役に処する」と定められた。同年4月には最高刑を死刑に引き上げ、多くの無実の市民が逮捕され拷問すら日常化していたという。
1974년1월을 죽음이라 부르자
오후의 거리, 방송을 듣고 사라지던
네 눈 속의 빛을 죽음이라 부르자
1974年1月を死と呼ぼう
午後の街 放送を聞いて消えた
君の瞳の光を死と呼ぼう
冒頭の3行である。
この詩「1974年1月」を記した金芝河は、同年4月に全羅南道の黒山島で逮捕され、7月に死刑判決を受けた。
日本からの解放、朝鮮戦争休戦を経てなお韓国市民が辿った暗黒の時代である。
それに比べれば、まだしもわが国には道が残されている。
しかし、あえて記したくもなってくる。
2021年10月31日を死と呼ぼう──と……。
同日深夜、NHKがBS4Kで音楽番組を放映した。
ひとつは「玉木宏の音楽サスペンス紀行 死の街を照らしたレニングラード交響曲」、それに続きNHK交響楽団によるショスタコービチの交響曲第7番「レニングラード」である。
「音楽サスペンス紀行」は2019年1月放映の再放映で、こちらは本放映ぶんを録画してある。
ナチスに包囲されたレニングラード。日々ひとびとが餓えて消えてゆくなか、あえてこの交響曲を演奏したオーケストラ。その模様はラジオを通じて市内やナチスと対峙する戦場でも流され、それはナチス兵の耳にも届いていたという。
作曲にあたり、ショスタコービチはナチスに対するレジスタンスはもちろんだが、いまひとつは自由と程遠い全体主義国家建設を邁進するスターリンにも刃を向けていた。
この夜、このふたつの番組の連続放映。プログラムを組み、実行したテレビマンの強い意思があったというのは穿った見方だろうか……?
深夜にわたるボリュームたっぷりの音楽番組にいささか疲労はしたものの、つづいて手持ちのDVDのなかから同じ作曲家の交響曲第14番「死者の歌」を聞きながら更け往く夜をひとし過ごした。
「死者の歌」はアポリネールなどの詩を用いたソプラノとバリトン独唱つきの楽曲である。インスタグラムにも引用したが、その歌詞の一部──。
День кончился.
Лампа над головоюГорит, окруженная тьмой.
Все тихо. Нас в камере только двое:
Я и рассудок мой.
一日が終わった。
暗闇のなか頭上にランプが灯る。
静かだ。独房にいるのはふたりだけ
オレとオレの理性。
※À la Santé/Guillaume Apollinaire/Перевод М. Кудинова
上の譜表は交響曲第7の有名なくだりのどの冒頭である。
ラベルの「ボレロ」のように、同じリズムと同じフレーズが楽器を徐々に加えながら、やがて大音響のクライマックスへと進んでゆく。
この不気味なリフレイン。いま、我が祖国はこのなかのどのあたりを進んでいるのだろうか。
恐ろしいことだ。
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